文系・工学系の学際・融合教育を目指して

教員

柏木 健一 教授(開発経済学、中東・北アフリカ経済研究)

研究テーマとの出会い、その魅力

柏木健一 助教

高校生のころから国際社会、特に中東で起きる出来事に関心を寄せていたのですが、私にとって衝撃的だったのは1991年の湾岸戦争でした。湾岸戦争勃発をきっかけに中東世界にいってみたいとの思いが強くなっていき、大学2年次にエジプトやヨルダン、ヨルダン川西岸・ガザ地区を初めて訪問しました。そこでは、湾岸産油国から帰還した出稼ぎ労働者が失業状態であふれ、大きな国内混乱が起きている世界でした。そのような経済的混乱を目の当たりにして、中東・北アフリカには、経済発展による社会の安定が必要だと、現在につながる研究テーマを漠然と思い描いていました。

他方、私は学部時代には、現在の専門とは異なり、農学分野、とりわけ乾燥地の耐乾性・耐塩性作物の生産について学んでいました。乾燥地における農業技術の開発という観点から中東・北アフリカ地域に関係してはいたのですが、同地域の経済のメカニズムや社会の制度についてより深く学びたいという思いが強くなり、大学院では開発経済学に専攻を変えました。つまり、学部時代に中東・北アフリカを実際に訪れ、同地域の独特の社会・経済やイスラーム文化に触れていくうちに、中東・北アフリカ経済研究の道が開かれていったのです。

現在私は、中東・北アフリカ地域の伝統文化やイスラームの社会制度と整合的な発展モデルの構築を目指し、同地域の持続的経済発展と政治的安定を導くメカニズムの探求を大きな研究課題としています。特に、エジプト、チュニジア、モロッコ、ヨルダンで、小規模伝統・地場産業のミクロ調査と生産性分析を実施しています。また、筑波大学の北アフリカ研究センターにて、生命環境科学の研究者と連携し、産業化シーズの高度利用による地域開発研究を展開しています。

中東・北アフリカは、乾燥に適応したユニークな生物資源の宝庫であり、サハラ沙漠の豊富な太陽光・熱エネルギー資源は、産業化シーズの研究・開発の大きな可能性を持っています。また同地域では、文明間の対話や共存、衝突など、人間社会のダイナミズムが観察でき、中でもチュニジアやエジプト、リビアは近年革命を経験しました。アラブ革命発生の要因とその後の混迷を読み解き、社会安定のメカニズムを研究することは、中東・北アフリカの人文社会科学研究に課せられた大きな使命です。このように中東・北アフリカは、文系にとっても理系にとっても学術研究上の様々な可能性を秘めています。文理融合による中東・北アフリカ研究を推進することこそ、現在の私の主要課題です。


学生へのメッセージ

研究の現場である中東・北アフリカに私が初めて訪れたのは、学生時代でした。学生時代の時間を活用して、同地域に何度も出かけ、現地で目の当たりにする政治・経済・社会の課題に大いに戸惑い、悩みました。ただし、その経験は感性と知性を磨くことに役立っており、学生時代に広めた見聞や深めた知識が将来の貴重な財産となっています。学生の皆さんには、日本から遠い世界の出来事ではあっても知的アンテナを常に張り、その課題について考える想像力を持ち、グローバルな課題の中に自分の使命感を見出して欲しいと思っています。また、物事の本質を見極めるための冷静な分析能力を養い、熱い情熱を持って、当該社会・経済が抱える課題の正確な理解と分析に取り組んで欲しいと思っています。そのためには、グローバルな課題を抱える世界に実際にどんどん出かけてみることも大切ではないでしょうか。

国際総合学類では、文系・工学系の学際・融合教育が重視されています。私自身も学生時代に大いに悩み、結局、理系から文系へ専攻を変えました。また、現在は、学内の北アフリカ研究センターにて、生命環境科学や工学の研究者との連携・融合研究を志向しています。国際社会のグローバルな課題に取り組むためには学際的アプローチは不可欠と思っておりますが、学際的な学びの場としても国際総合学類は最適です。国際総合学類の強みを生かして、専門性を磨き、かつ幅広い視野を持つ学際的素養を身につけて欲しいと思っています。また、国際総合学類では、国際舞台で活躍できる人材の育成が重視されています。国際舞台で活躍するためには、大学の勉強の中で専門性や語学力を磨くことも必要ですが、より重要なのはグローバルな利益、公益のために国際社会の課題に取り組もうという使命感です。その使命感を是非とも育んでいって欲しいと思っています。