文系・工学系の学際・融合教育を目指して

卒業後

17期生 相馬里香: 日本電気(株)

大学生活という名の航海に向けた準備期間

大学4年生のころ、所属していたゼミの先生に就職の相談をしに行った時のことです。国際開発に携わる仕事を強く希望していたのですが、内定を受けた会社は国際開発と直接は関係しないことに不満と不安を感じていました。そんな私に先生がかけてくださった言葉は、「自分がやりたいことを目指すのは、遠くにある島を目指して船を漕ぐようなことだ」というもの。さらに、「目指す島へたどり着くには、何通りもの行き方がある。最短距離でもいいし、途中で別の島に寄ってもいい。また島へは360度どこからでも上陸できる。重要なのは、寄り道をしていても、船を漕いでいても、決して島から目線を離さないこと」であると。これは、私が就職先を決めたときだけでなく、進路の判断に迷ったときに幾度となく背中を押してもらった言葉です。
今振り返ると、当時高校生だった私が、どこの大学を受験しようかと真剣に考え始めたことは、大航海に向けてどこの島を目指そうかと最初に地図を広げたことに等しかったのだと思います。国際総合学類に決めた理由は、国際開発の方角に興味があり、国際と名のつくものを広く勉強してみたかったから。大学に入学すると、親の監視から解放され、まさに煩悩の赴くままに一人暮らしを楽しみました。しかし、寝坊して出席が足りずに単位を落としたり、課題が終わらず2日続けて徹夜をしたり、楽しいことばかりを追求すれば必ずしっぺ返しがあることを身をもって学んだのもこの頃です。
バックパック旅行をしては地図にも載っていないような小さな村を訪ね、交換留学先では多くの国から来た留学生と宗教観について語り合い、ゼミでは仲間と遅くまで熱い議論を交わしました。大学生活のすべては、広げた地図の上で自分が目指す方位を定め、さらにコンパスの使い方、距離の測り方など航海に向けて最低限必要となる知識を習得することだったのだと思います。電機メーカーに就職してからは、マーケティング部署で数年働いた後、得意の英語や国際感覚を活かして、特に外国企業との協業を実現させる交渉担当の一員としても働きました。しかし、多忙な日々に追われながらも、自分の目指す方角から目を離してはいませんでした。2010年の4月から休職制度を活用してJICAの青年海外協力隊員としてフィリピンに赴任。ルソン島南東部にある小さな町のNGOで、農民の生活向上を目指したプロジェクトに実行スタッフとしてボランティアをしました。またNGOでの仕事の他にも、ストリートチルドレンを対象にした活動を自ら立ち上げました。任地の名産「ピリナッツ」という木の実の殻を利用したアクセサリーの手作り教室を開く一方、商品の販路を開拓し、貧困に苦しむ子どもやその家族の収入向上の支援を行いました。協力隊活動中には、大学で勉強した開発の知識や会社員時代に培ったマーケティングや交渉スキルが、NGOのスタッフや人々との信頼関係構築や工夫を凝らしたプロジェクト企画・実行に大いに役立ちました。

帰国し復職した後も、ストリートチルドレンを支援する活動を継続しています。千葉にある高校や市民団体に対して、貧しい子供たちの現状や行った活動について講演をしたり、子供たちの作ったアクセサリーを日本で販売する新たな資金調達方法を模索したり、自分の置かれた環境の中で出来ることを見つけています。また復職後の職場でも、社内ベンチャー制度を活用して途上国の人々のために役立てる新商品の立ち上げを考え始めています。

大学や就職先など自分の選んだ道が正しかったのか自問自答を繰り返したこともありました。今、自信を持って言えることは、島への航海とは無関係で寄り道と思えたことでさえ、すべてが経験、そしてかけがえのない財産となっているということです。そして、今の自分は確実に目標としている島に近づいていることを実感しています。 これから大海原へそれぞれの島を目指して船を進めるみなさん。目標とする島を見据えていれば、いつの日か必ず辿り着くことができます。航海に向けた準備期間である大学生活や、辿り着くまでの過程である社会人生活を恐れることなく心から楽しんでください。Bon Voyage!